はじめに
被相続人(お亡くなりになられた方)の遺産分割で遺族が揉めてしまうことを防ぐために、財産の分割方法は家族のご事情にあわせて事前に判断することが重要です。金銭や有価証券、土地・建物、保険など、財産の種類は多岐にわたり、ご事情によって、「遺言」を作成した方がよいか、「家族信託」を利用した方がよいかが異なります。
本記事では、「遺言」と「家族信託」の相続対策について説明していきたいと思います。
遺言書を作成することによる利点とは?
1.遺産の分け方を自由に決められる
遺言書を作成することにより、被相続人は生前に遺産の分け方を自由に決められます(民法第964条)。生前に築き上げた財産は、ご自身の意思によって誰に引き継ぐかを決めたいと考える方が多いでしょう。
そこで、遺言書を作成すれば、ご自身の意思を相続に反映させることができます。
2.遺産分割トラブルを予防できる
遺言書によって分け方が指定された遺産は、原則として遺産分割の対象外となります。
遺言書ですべての遺産の分け方を決めておけば、相続人間で遺産の分け方について揉めてしまうリスクを回避できます。
上記のような点から、相続対策として大変効果的です。

ただ、遺言は、遺言者(被相続人)の死亡により効力が生じます(民法第985条1項)。そのため、遺言者が亡くなるまで、その最終意思である遺言は何度でも書き換え可能ですが、遺言者が生きている間に財産を移転させる効力はありません。したがって、「生前のうちに事業承継を行いたい」場合や、「認知症対策」として遺言を利用することはできません。
一方で、
家族信託契約では、契約自由の原則により、被相続人と相続人の両当事者が望む時期から効力を発生させることができます。
財産の管理を十分にできない事態に備えて、生前に柔軟に財産を活用できるようにしておきたい場合は、家族信託が適していると言えます。
家族信託とは?
家族信託とは「家族に自分の財産を信じて託し、代わりに管理してもらう制度」です。
家族に財産を託すことにより、「柔軟な財産管理・運用・処分」や、「自分の望むかたちの相続」が可能になります。
家族信託とは、新しい財産管理方法や相続対策として注目されている制度なのです。
家族信託で相続対策をすべきケース
家族信託で相続対策をすべきケースとしては以下の例があげられます。
1、認知症による財産凍結が心配
例えば、生前の被相続人が認知症になってしまい事前に何の準備もしていなかった場合、被相続人の資産を動かせなくなってしまう可能性があり、その場合、相続人が被相続人のために被相続人の資産から支払いをすることが難しくなってしまいます。
重度の認知症の場合には財産を処分する意思表示すらできなくなってしまう可能性が高いため、そのままでは取引行為が制限されてしまいます。
この点、生前に家族信託を利用して、万が一の時には資産を介護費用などに利用できるように指定しておけば、急な入院などが発生しても相続人がスムーズに財産を利用して介護費用を捻出することができるのです。
2、先祖代々の資産を守り、孫世代までの相続方法を指定したい
実現するためにまず思い浮かぶのが、遺言により財産を取得した長男や長女が亡くなった際は、当該財産を長男や長女の子である孫に相続させるなど、孫世代の相続方法まであらかじめ遺言で定めるという方法が考えられますが、一旦相続された財産は遺言者である被相続人のものではなくなってしまいますので、長男や長女が遺言により財産を取得した後の、孫世代の相続方法までを遺言によって定めることはできません。
これに対し、家族信託を利用すれば被相続人が亡くなられた際の相続だけでなく、その後に被相続人の相続人が亡くなった際の相続(いわゆる二次相続)に関しても財産の引き継ぎ方を指定することができます。
先祖代々の財産をその家の外に出さずに引き継いでいくことが可能になるというわけです。
3、障がいのある子どもの生活を保障したい
お子様に知的障がいなどがある場合、働くことが困難となってしまったり、就職をしても十分な給与を得ることができなくなってしまうことも多いです。
その様な場合に、ご両親が認知症になり判断能力が乏しくなってしまい、お子様に経済的サポートをできなくなってしまう事態に備えて、財産を管理してもらう「成年後見人制度」という制度がありますが、成年後見人制度の場合、最終的には、裁判所が成年後見人を選任することとなりますので、ご両親の意向に沿う形で、財産を管理する成年後見人が選任されるとは限らず、成年後見人の判断として、あくまで親としての扶養義務を履行する上で必要な範囲でお子様を経済的にサポートするにとどまり、必ずしも、ご両親の意向に沿う形でお子様の経済的サポート維持できるとは限りません。
一方で家族信託は家族間で財産の管理をお願いできるため、障がいのあるお子様のサポートにとても最適です。
その上、ご両親の財産の中に賃貸物件などの収益不動産がある場合には、特に家族信託がおすすめです。
不動産を所有するご両親が認知症など何らかのご事情により不動産の管理ができなくなってしまった際に、家族信託であれば管理のみ代理で任せ、収益はお子様に入るという仕組みが作れるため、ご両親の意向に沿う形でお子様を経済的にサポートできる上、適切に賃貸物件を管理してもらうことができます。

最後に
以上のように、家族信託によって、可能となる相続対策の幅が広がるのです。
相続対策について、お客様各々で抱えていらっしゃるご事情やお悩みも異なるかと思いますので、まずは弁護士にご相談いただければと思います。
東京弁護士法人では、年間相談2000件超の経験とノウハウをもとに、相続に関する相談・案件に精通した弁護士が多数在籍しておりますので、どうぞお気軽にご相談ください。