不倫相手の配偶者に面会して謝罪する義務はあるの?
このようなご質問をよくいただきます。不倫相手の配偶者への面会・謝罪は義務なのか、弁護士が解説します。
面会・謝罪は法的な義務か
不倫が原因で不倫相手の配偶者から慰謝料を請求される場合、「一度会って話がしたい」、「直接会って頭を下げて欲しい」などと、面会した上での謝罪を求められるケースがあります。不倫をしたら対面での謝罪をしなくてはならないのでしょうか。
結論として、不倫をしたからと言って対面での謝罪をしなくてはならないという法的義務はありません。
自身が既婚者でありながら、あるいは相手が既婚者と知っていながら肉体関係を持った場合、それは不倫、法律用語でいうと不貞行為に該当します。不貞行為は民法上違法とされている行為であり、いかなる理由があったとしても法を犯している以上悔い改めなくてはなりません。被害者である不貞相手の配偶者より民法の不法行為に基づく慰謝料の請求を受けた場合、相当な金額を支払う義務を負います。しかし、面会する・しないを問わず、不貞の謝罪については法律上定めがなく、不貞をしたら面会し謝罪をしなくてはならないという法的義務は発生しないのです。
謝罪はしなくていいのか
上記の通り、不貞をしたとしても法律上は謝罪の必要がありません。それでは謝罪はしなくても良いのでしょうか。
実は、そうではありません。上記にて不貞相手の配偶者から慰謝料の請求を受けた場合には相当な金額を支払う義務を負うと説明しました。しかし、慰謝料はあくまで和解するための条件であり、それ自体が目的ではありません。誠心誠意謝罪し、深く反省していることを相手方に伝えることができれば、裁判にはせずに交渉で和解してもらえるかもしれません。状況によっては、二度と会わないことを条件に慰謝料の請求を免れる場合もあるかもしれません。加えて、もし裁判になってしまったとしても、謝罪をしていればそれが慰謝料の減額事由として考慮されることもあります。このように謝罪には複数のメリットがあるのです。
直接謝罪するように求められたら
上記のように謝罪には複数のメリットがあります。謝罪するならば直接顔を合わせて謝罪するほうがより誠意を伝えることができるのではないか、と思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
確かに、相手方からの求めに応じ、直接会って謝罪をすることにより、相手方が許してくれる可能性もゼロではありませんが、実際に対面すると、相手方が感情的になってしまうことが多いため、直接会って謝罪をしたからといって、相手方が簡単に許してくれる可能性は低く、曖昧な謝罪をすれば、相手方をより怒らせてしまう事態になりかねません。
また、相手方が一人で来るとは限らず、相手方を味方する複数名と一緒に来る場合もあり、その場合には、数的に不利な状況に追い込まれてしまうことになります。
さらに、対面による心理的プレッシャーを受け、相手方からの要求を断ることができず、自分に不利な条件が記載された示談書へサインしてしまうといった事態も想定されます。
加えて、不貞について確実な証拠を獲得するために、相手方がその場の会話を録音している可能性もあり、相手方からのプレッシャーに負けて思わず発言してしまった内容などが、証拠としておさえられてしまう可能性もあります。
繰り返しになりますが、法律は、相手方に面会したり、謝罪したりする義務までは定めておりません。相手方から、直接の謝罪などを求められた場合には、慎重な検討が必要になります。
謝罪をしない方が良い場合もある
既に少し触れましたが、謝罪がデメリットにつながる場合もあります。謝罪をしない方が良い場合とはどのような場合でしょうか。考えられるケースを挙げて説明いたします。
まず不貞が事実ではない場合が挙げられます。この点、近時の裁判例を見ると、肉体関係がなくとも、夫婦の生活を破壊するような性的な行為があれば、不貞にあたると判断している裁判例もあります(東京地裁令和3年2月16日判決)。そのため、肉体関係や性的な行為がないにもかかわらず謝罪をすると、不貞行為をしたことまで認めたと判断され、むしろその謝罪を不貞行為の証拠にされてしまう可能性があります。
また、不貞相手に独身だと騙されていたなど既婚者であることを知らなかった場合もいったん謝罪はしない方が良いでしょう。不貞相手が既婚者であることに疑う余地がなかったと認められれば、慰謝料を支払わなくてよいだけでなく、むしろ独身だと偽っていた不貞相手に慰謝料を請求できる可能性があります。
最後に
以上のように、不倫の慰謝料請求をされた場合に取るべき対応は状況によってさまざまです。どのような対応を取ればいいのか、専門的な知識に基づく判断が求められる場合もありますので、不貞が原因で不倫相手の配偶者から慰謝料を請求され、謝罪を求められた場合には、安易に相手方と面会することはせず、一度、当事務所までご相談をいただければと思います。